佐藤純の賭博回遊業 惜しかった完全勝利

佐藤純

非常に暑い日が続いている。日本に居ては身体が溶けてしまいそうだ。今朝はあまりの暑さに目が覚めてしまい、2度寝も諦めて散歩をする事にした。

寝起きの汗をシャワーで流し、身支度を終えてすぐに出発。普段は電車で通り過ぎる町並みを徒歩で歩くと、公園には盆踊りの櫓が出来ていた。そういえばもうこんな季節なのだなと感慨に耽り、心の中で先祖に手を合わせた。

20分程度歩いたのだろうか。コンクリートで出来た町並みが蜃気楼で歪んで見え、流れた汗でシャツが背中に張り付いている。このままでは暑さで歩けなくなるか、熱中症に成ってしまう。幸いなことに、近所には日頃世話になっている賭場があるので、そこに避難をすることにした。

入場手続きを済ませると、すぐさま烏龍茶と赤ラークがテーブルに届けられる。禁煙中の身だが、いただいたものを返却するのは失礼だと思い、そのまま収めさせてもらった。吸うつもりは一切無かったのだが、手元に有ると自然に煙草の封を開けて、何事も無かったように吸ってしまった。日常の癖というのは怖いものだ

今回の賭場だが、卓はVIPバカラとミニ、それからミディバカラが用意されており、俺はミニで勝負する事にした。VIPは最低500ドルから、ミディは最低50ドルからに成っているため、この2つは最初から選択肢に入っていないのだ。

早速ミニバカラの罫線をチェック。ディーラーから罫線を貰い、少々眺めていると、テンコテンコの後にプレーヤー面に成り、そのまま落ち込んでL字が形成されようとしていた。このままプレーヤーが勝てると推測した俺は、先ほど購入した200ドル全てを躊躇なくプレーヤーにおき、初回からオールインをしてしまうのだった。

ノーモアベットの掛け声が聞こえた時に我に戻り、「これではミニバカラを選択した意味がないではないか!」と少々後悔してしまったが、後の祭りだ。大人しくゲームの進行を見守るしかなかろう。

プレーヤーには『絵札』 バンカーには『9』。圧倒的に不利な条件にため息しか出なかったが、ディーラーから「2枚目、今回は佐藤さん絞りますか?」と絞りを促された。ミニバカラでは絞りは無しなのだが、ディーラーが気を利かせてくれたようだ。折角の申し出を断る理由も無いので、全身全霊で絞らせてもらう事にした。

最初に縦のほうからジワジワ絞り、足2本を確認。カードを横に持ち替えて、やはりジワジワ・・出てきたのは足4本だ!この時点でカードの中身は『9』か『10』となる。ここで一旦カードを戻し、呼吸を整え、カードを縦に戻してジワジワ絞り始める。「抜けてくれ!」と心で叫び、手の震えを押さえながらゆっくりと、マークの一つが消えてなくなるように息を吹き掛けつつ、願いを込めて絞り切り、出たのは『9』。天井到達で負けなしが確定だ!

更にバンカーにもう一枚、出たカードは『A』で豚となり、俺の勝利確定!400ドルが舞い込んできた。昔の俺ならここで置き張りしてしまうのだが、安全を優先する現在は、100ドルをプレーヤーに出陣させ、それ以外は守備隊として手元に残して勝負した。この勝負は熱く成れる要素もなく、すんなり勝利を収めて総額500ドルが手元に。

未だ2ゲームしか消化していないが、散歩の途中と理由を告げ、このシューが終わった時点で退店させて欲しいと黒服に交渉した所、すんなり了承された。(暗黙の了解として、本来こういった場では、ある程度の滞在時間が必要になるのだ。)

ここからは完全に守りに入り、最低賭け金20ドルでの勝負に切り替える。シューの消化を見守りながら、ここぞというタイミングでちまちまと勝負を続け、シューの消化を追えた頃には600ドルと少しの半端が手元に残っていた。

約束通りアウトコールをさせて貰い、本日の勝負を終了させる。店を出る前に、焼きそば、ビール、肴にイカの塩辛を注文し、この先の猛暑に立ち向かうエネルギーを充填。自宅までの4キロを散歩しながら凱旋予定だ。本日は負けが1回だけのほぼ完全勝利であった。

ご馳走様。

この物語はフィクションです。あくまでも「読み物」としてお楽しみいただくためのものであり、インカジ(カジノカフェ)を奨励するものではありません。ネットカフェでのインカジ利用では摘発者が頻発しています。

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